視覚トレーニング(ビジョン・トレーニング)とは、シンプルに表現すると‘眼の筋トレ’です。ただ、単に目の筋肉を鍛えるだけではなく、筋肉の‘緊張をほぐす’という意図もあります。
視覚トレーニングはさまざまな角度から眼球の運動を促し、眼、脳、身体のコンビネーションを総合的に改善していくのが狙いです(いわゆる視力向上プログラムではありません)。以下、視覚トレーニングの代表的なものをご紹介いたします。
○寄り目トレーニング 輻輳(ふくそう)
本を読むときやパソコンをするときまたは、スポーツでボールが遠くから近くにくるときなど、近くのものに焦点を合わせるとき、私たちの両眼は中心によります。この寄り目を行うには、眼筋が正しく働かなければなりません。勉強嫌いや運動嫌いの原因が眼筋の不調和にあることもしばしばです。これは、ストレスに端を発する場合もあるので要注意です。下の写真のようにペンや指などの視標を使い、寄り目の力を養いましょう。
また、ブロックストリングスという紐に三つの視標が付いた器具を使うと、幅の広い焦点合わせ眼球運動ができます。手前の視標、真ん中の視標、後ろの視標(ここではアンパンマン、メロンパンナ、バイキンマン)と目の焦点を移動していきます。この際、焦点がぼやけないように集中して行ってください。ブロックストリングスの使用で、寄り目、調節、脳と目の協調のトレーニングを効率的に行えます。
○滑動性眼球運動トレーニング(Pursuit eye movement)
蝶々やトンボなどゆっくり動いている虫を目で追うような動きのことを、‘滑動性眼球運動(パース―ト)’といいます。顔はあまり動かさずに目だけで視認物体を追う運動です。一本視標やマースデンボールを使いトレーニングしていきます。両目は同じ方向に動いていきます。この眼球運動のことを‘むき運動’といいます。むき運動をおこなうと、心身のリフレッシュ効果も期待できます。疲れた時は行ってみてください。
○衝動性眼球運動トレーニング(saccadic eye movement)
読書をするとき、行から行にすばやく目を移す運動が、眼球に要求されます。この素早い眼の動作のことを‘衝動性眼球運動(サッケード)’といいます。これがうまくできない人は読書が苦手になってしまいます。
数字飛び読み訓練などの方法でトレーニングします。
○調節トレーニング
私たちは文字や画面など近くのものを見る際、毛様体という筋組織を使い、眼球の中の水晶体というレンズの厚さを変え、焦点を合わせています。これがうまくできない人は文字を見ることが苦手になります。焦点合わせのトレーニングが調節訓練です。名刺を手に持ち、眼前で近づけたり遠ざけたりしていきます。その際、名刺の文字がボヤケないように意識を集中します。
以上、ご紹介したものはパソコンなどを使用しないため、一見ローテクな感じがしますが、こういった身近なトレーニングこそ実生活に役立つ視覚向上を促すことができるのです。視覚トレーニングは自転車に乗るための訓練と同じで、一回身につければ、一生その効果は持続します。みなさんあきらめずにじっくり腰を据えて、まずは一日一分を目標に取り組んでみてください。
眼のコントロールが上手くいかない人の中には、日常のストレスのため呼吸が浅くなっている方もいます。余裕のある方はぜひ呼吸法にも取り組んでください。
○呼吸法のやり方
指で片方の鼻の孔を押さえ、鼻からゆっくり深く息を吸っていきます。お腹いっぱい吸い切ったら、ゆっくりと細く口から息を吐いていきます。2~3回行うといいでしょう。
呼吸法を行うと、ストレスのために働きにくくなっていた副交感神経が優位になってきます。副交感神経は、モノを見る際焦点を合わせるなど、眼の調節機能にとても重要な働きをしています。
最後に、これらの視覚トレーニングを行う前に、まずは視力矯正を正しく行いましょう。メガネの過矯正(レンズ度数が強すぎる)ということはしばしばあります。この場合、調節不全や輻輳過剰などの原因となり、近業作業の困難を招きます。認定眼鏡士のいるしっかりしたメガネ店で、視力検査をしてもらいましょう!